財務省が相続土地を最大9割引きで民間売却へ|2026年7月所有者不明土地問題の新制度とは
2026年7月、財務省は相続人が引き継ぐ意思のない「相続土地」を国が引き取った後、民間に売却する際の評価額を最大9割引きまで下げられる新制度を発表しました。さらに、3カ月ごとに段階的に値下げを重ねることで、最大93%まで引き下げる仕組みも示されています。所有者不明土地を減らすための国の新たな政策を、背景と仕組みを交えて解説します。
この記事でわかること
- 財務省が発表した新制度の具体的な内容
- 最大9割引きから93%引きまでの段階的値下げの仕組み
- 2023年から始まった「相続土地国庫帰属制度」との関係
- 所有者不明土地問題の深刻さと背景
- 随意契約と現状有姿売買の規制緩和の意味
- 誰にとってどういうメリットがあるのか
新制度の概要:国が引き取った相続土地を最大9割引きで民間へ
2026年7月、財務省は相続人に引き継ぐ意思がなく、国が引き取った「相続土地」の民間売却を促進する新たな仕組みを導入する方針を発表しました。これまで国が引き取った土地は一般競争入札で売却を試みていましたが、売却実績はゼロで、維持管理コストが国の負担となっていました。
新制度の核心:国が引き取った相続土地の評価額を最大9割引きまで下げて民間売却を促進
最初は3割引きから、3カ月ごとに1割ずつ値下げ。最終的に当初評価額の7%(93%引き)まで可能
具体的な値下げの仕組みは、最初に評価額を3割引き下げ、それでも買い手がつかなければ3カ月ごとに1割ずつ減額するという段階的アプローチです。繰り返し値下げを続け、最終的には当初評価額の7%まで下げられる方向で検討されています。たとえば当初評価額が100万円の土地であれば、最終的には7万円まで値下げして売却できる仕組みです。
この制度は2026年7月17日に開く財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の国有財産分科会で、より詳細な案が示される予定です。
背景:所有者不明土地という日本の大きな課題
なぜ国は、これほどまでにして土地を民間に売却しようとしているのでしょうか。その背景にあるのが、所有者不明土地という日本の社会問題です。
所有者不明土地とは、登記簿上の所有者がわからない、または所有者がわかっても連絡がつかない土地のことです。多くの場合、相続が発生しても登記の名義変更がされないまま世代を超えて放置され、最終的に誰が所有者かわからなくなります。祖父名義のままの土地を、子や孫が登記し直さずにいるうちに、相続人が何十人にも膨れ上がり、所有者を追えなくなるケースが典型的です。
国土交通省などの調査によると、2016年時点で所有者不明土地の面積は約410万ヘクタールに達し、これは九州の面積(約367万ヘクタール)を上回る広さです。有効な対策を取らない場合、2040年には約720万ヘクタール(北海道の面積に迫る規模)まで拡大すると試算されています。増田寛也元総務相らの研究会は、2040年までの累計で約6兆円の経済的損失が生じる可能性も指摘しています。
相続土地国庫帰属制度とは
今回の新制度の前提となるのが、2023年4月に始まった相続土地国庫帰属制度です。これは、相続や遺贈で取得した土地のうち、相続人が不要と判断した土地を国に引き渡せる制度です。これまで日本では、土地だけを切り離して手放す方法がなかったため、使い道のない土地を抱えたままの人が多数いました。
ただし、どんな土地でも引き取ってもらえるわけではありません。建物が建っている土地、担保権が設定されている土地、境界が不明確な土地、土壌汚染がある土地などは対象外です。また、相続人は審査手数料に加え、原則として10年分の管理費に相当する負担金を国に納める必要があります。宅地の場合、負担金は目安として20万円程度です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 相続土地国庫帰属制度 |
| 開始時期 | 2023年4月 |
| 対象 | 相続・遺贈で取得した、管理に過大な費用や労力がかからない土地 |
| 費用 | 審査手数料+10年分の管理費に相当する負担金 |
| 利用状況 | 2026年1月末時点で申請5,032件、帰属2,435件 |
売却の新制度:値下げと2つの規制緩和
段階的な値下げの仕組み
財務省の新制度では、売却が難航する土地の価格を段階的に下げていきます。最初は評価額を3割引き下げ、需要に応じて3カ月ごとに1割ずつ減額します。最終的には当初評価額の7%まで引き下げ可能で、差し引き最大93%の値引きとなります。
随意契約の導入
これまで国は一般競争入札で土地を売却していましたが、これでは「特定の人にしか価値がない土地」にピンポイントで届きにくい問題がありました。新制度では、競争入札を経ずに特定の相手と直接契約できる随意契約が可能になります。隣接する土地を持つ人や、地元で農地を集約したい農家など、隠れた需要を拾い上げやすくなります。
現状有姿売買の導入
通常、国が土地を売る際には境界を測量し、地下の障害物を調査しますが、価値の低い土地では調査コストが価格を上回ることもあります。新制度では、測量や調査を省き、土地をそのままの状態で売る現状有姿売買が認められます。買い手は土地の状態を自己責任で確認したうえで購入することになります。
この政策が持つ意味と影響
今回の新制度は、国にとって「資産」としての土地を「負担」と捉え直す大きな発想の転換です。価値の低い土地を維持し続けるコストは、安くても売却するコストより大きいという判断が背景にあります。
- 地方の土地活用:使われずに放置されていた土地が、隣接者や地元事業者に安価で引き継がれることで、農地の集約や地区の再編が進む可能性があります。
- 所有者不明土地の予防:不要な土地を国が早い段階で受け取り、売却できる出口を確保することで、将来の所有者不明土地の発生を抑制できます。
- 財政負担の軽減:売れない土地を国が長期間管理するコストを減らし、国有財産の効率化を図れます。
- 買い手のメリット:条件を理解したうえで、通常より大幅に安い価格で土地を取得できるチャンスが生まれます。
よくある疑問(FAQ)
Q. 相続土地国庫帰属制度を使えば、無料で土地を国に押し付けられるのですか?
A. いいえ。利用には審査手数料と、原則として10年分の管理費に相当する負担金が必要です。宅地の場合は目安として20万円程度です。また、建物がある場合は自費で解体するなど、要件を満たすためのコストもかかります。
Q. 最大9割引きというのは、どんな土地でもすぐに9割引きになるのですか?
A. そうではありません。まず3割引きから始まり、3カ月ごとに1割ずつ段階的に値下げします。需要がある土地は早い段階で高い価格で売れ、売れ残った土地だけが最終的に93%引きまで下がる仕組みです。
Q. 一般の人がこの制度で土地を買うにはどうすればいいですか?
A. 財務省の国有財産の売却情報を確認し、対象となる土地を探します。随意契約が導入されることで、特定の土地を購入したい場合の交渉がしやすくなる可能性があります。ただし、現状有姿売買では調査を自分で行う必要があるため、不動産の専門家に相談することをおすすめします。
Q. なぜ2023年に始まった制度の売却実績がゼロだったのですか?
A. 地方の使いにくい土地が多く、一般競争入札では買い手がつきにくかったことが主な理由です。また、国が土地を売る際の調査や測量の手続きが煩雑で、価値の低い土地にコストをかけるのが現実的でなかったことも影響しています。
Q. この制度はどんな人にメリットがありますか?
A. 相続人にとっては、不要な土地を国に引き渡す出口が整い、将来の管理責任を回避しやすくなります。隣接する土地を持つ人や地元事業者にとっては、割安で土地を広げたり整備したりする機会が生まれます。地方自治体にとっては、所有者不明土地の発生を抑制しやすくなります。
まとめ
2026年7月、財務省は相続人に引き継ぐ意思がない「相続土地」を最大9割引き、段階的に最大93%まで値下げして民間に売却できる新制度を発表しました。これは、2023年から始まった相続土地国庫帰属制度で国が引き取った土地の「売却出口」を確保するための政策です。随意契約や現状有姿売買の導入も合わせて、価値の低い土地を効率的に処分し、全国で約410万ヘクタールに及ぶ所有者不明土地問題の未然防止を目指します。今後、7月17日の財政制度等審議会国有財産分科会で具体的な案が示される予定です。SANOBAでは、続報を分かりやすくお伝えします。